机の下の足下で
🕑 Added 2026-01-12 12:51:41 +0000 UTC
こんにちは。今回は、人生順風満帆だった男性が縮小病にかかってしまい、そこを少女に見つかり持ち帰られ、立場の違いを分からせられ、色々と足で弄ばれてしまう話です。
16000字程度です。これ以上続編に伸ばす話を増やすのもな、と思い、まとめて投稿させてください。
書きたい新作の案が多くあり、どんどんプロットが溜まる一方なのですが、次の週末こそは過去作の続編を投稿予定でおります……
よろしくお願いいたします。
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その病気は、ある日突然、何の前触れもなく訪れる。
——縮小病。
対象は、主に健康な成人男性で、発症者の身体が一瞬でわずか数センチのサイズにまで縮んでしまうという、前代未聞の奇病である。
そのため、服や荷物は残されているのに、本人だけが忽然といなくなったように見え、当初は神隠しやUFOに攫われた、などの話が蔓延ったほどだ。
発症の瞬間を目撃できたケースは極めて稀で、記録された症例は少なく、医学的なデータもまだ乏しい。
しかし、縮小病の恐怖は、身体が小さくなることそのものではない。
その後に起きることだ。
身体が突然数センチになってしまえば、周囲に助けを求めることすら難しい。
気づかれず、ゴミとして掃除機で吸われたり、靴に踏み潰されたり……。
また、服や荷物が地面にあるのを見て、通行人や近くの同僚、あるいはたまたま居合わせた人間が慌てて119番通報するも、肝心の本人の姿はどこにもない、ということも良くあった。
本人がその場から移動していなくなった可能性もあるが、発症時を見かけた者により、こっそり拾われてしまうこともあるのだ。
発症の瞬間を見た第一発見者は、最初は驚き、戸惑う。
だが、未だ治療法が見つかっていない奇病。
他に周りに誰も目撃者がいなかった時、こう思うのだ。
———これ、誰にも見られずに、持って帰れるんじゃないか?
手のひらサイズの人間。
叫ばれても、声は誰にも届かず、逃げることも抵抗することもできない存在。
誰かが通報するまでのほんの一瞬、小さな身体を摘んでポケットやバッグの中へとしまってしまえば、もう誰にもバレることはないのだ。
現場にきた警察も、小人になった後、どこかへ助けを求めて移動し、死んでしまったのだろう、と捜査を打ち切ってしまう。
また最近、若者のSNS上で縮小病に感する動画が流行っていた。
《拾った小人を、足で躾けてみた♡》
《小人の踊り食い(メン限のみ。アーカイブに残しません)》
少年少女たちが、掌に乗るほどの小さな男性を扱っている動画だ。
AIの生成動画だという者も多いが、あまりにもリアルなその動画は議論を呼び、多くの再生数を稼いでいる。
こうした流れも、縮小病をこっそり連れ帰ることに対する心理的なハードルを下げてしまっているのだ。
警察は、小人を捕まえることは誘拐です、発見時は速やかに連絡を、と注意喚起しているが、すでにSNS上では「拾い小人」「小人奴隷」などのタグが生まれ、縮小病患者を飼うことは、一部の者にとってはバズるチャンスとして捉えられていた。
——そんな世の中で、今日もまた、ひとりの男が縮小病を発症し、逃げ場のない運命へと転がり落ちようとしていた。
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「……あー、もうこんな時間か」
西澤康二は、営業先のビルを出て深く息をついた。今日は朝からハードスケジュールだった。
早朝の資料準備から、9時の社内会議、そのまま10時半には外回りで都内を4件ほど巡回。
朝からろくにご飯も食べれていなかった。
気づけば、すでに空はオレンジ色に染まり始めている。
「やべー、腹減ったぁ……くそ、あそこの部長、いつも話長いんだよなぁ……」
駅に向かってぼやきながら、彼は携帯のLINEを開く。
『お疲れさま!今日忙しいんでしょ?夜は空いてるって言ってたから、20時に駅前のイタリアン予約してあるよー。』
恋人の香織からのメッセージだ。
「はは、相変わらず、気が回るな……いつもありがとな、香織」
微笑みながら、返信を打つ。
営業としての成績は、社内でも上位。
先月は成績トップだったため、社長賞まで受賞した。
仕事は順調。
そして、恋人の香織とは、付き合ってもうすぐ1年になる。
「……このまま、順調にいけば……」
康二は少し先の未来を思い描いた。
昇進に、結婚。
すべてが順風満帆。そう思っていた。
「……ん?」
軽く、眩暈がした。
視界がゆがむ。
建物が、ぐにゃりと曲がって見えた気がした。
「……立ちくらみ…か…?」
そう思ってしゃがみ込もうとした瞬間だった。
足元が、異様に近くに感じるのだ。
——いや、違う。
自分の身体が、沈んでいる?
「……えっ……?」
腕が、袖の中にすっぽりと吸い込まれていく。
足の感覚も、子供が大人の靴を履いているかのように、靴のサイズがどんどん合わなくなっていく。
「ま、まって、何だよこれ……!?やばい、やばいって……!」
急いで立ち上がろうとするも、身体が言うことをきかない。
首元のシャツが急激に大きくなったかと思うと、襟が頭の上に覆いかぶさってきた。
「うわ、ちょっえっ……!?」
視界が、暗くなる。
シャツの中、密閉されたような布地の中で、康二はもがいた。
頭を振っても、手を伸ばしても、服から抜け出せない。
自分の身体が、まるで人形のように小さくなっていく感覚に、康二は恐怖を覚え始めた。
「おい……ウソだろ、これ……?どうなってんだよ……!」
片手で持っていたスマートフォンが、持てなくなり、床に落ち、自分の身体より大きくなっていく。
巨大になったスマホと比較して、気づけば身体のサイズは、5センチ程度にまで縮んでいるようだった。
「っ……ハァ……ハァ……」
ようやくシャツの隙間から抜け出した康二は、素っ裸で、今度はスーツの山を這うようにして進む。
「これは……もしかして、テレビでやってた……あの……」
自分の頭に、ある言葉がよぎる。
——縮小病。
「……いや、まさか……俺が、そんな……」
必死に何かの間違いだと思い込み、理性を保とうとする。
康二は急いで周囲を見渡す。
夕暮れ時、少し先にコンビニが見えるが、人通りは元々少ない場所だ。
誰も、自分の変化には気づいていないようだった。
「た、助けを……」
声を出そうとするが、その声すら、日常の雑音にかき消されてしまう。
自分の服の範囲を必死に進むも、その中から出ることすら難しい状況だった。
「た、助けてくれぇっ!!誰かっ……誰かぁぁ!!」
それでも、康二は叫んだ。
「誰でもいい……誰かに、見つけてもらわないと……!」
——その時だった。
突如康二の頭上に、影が差しこむ。
「ん?」
細く高い、少女の声だった。
「なにこれ……スーツ、シャツと、カバン?……あ、下着もある。え?何これ……神隠しってやつ?こわー……」
地面のスーツに近づいてくる、巨大な白いスニーカー。
それは、康二の身体よりはるかに巨大で、ひと蹴りで吹き飛ばされるレベルだ。
「…….あ、これ、あれじゃね?この前ネットで見た……縮小病、だっけ……?」
人だ!
康二は藁にも縋る思いで再び叫び出す。
「まって、君!ここだ!俺がここにいるんだ、助けてくれー!」
だが、声はとても少女にまでは届かない。
すると少女はしゃがみこみ、スーツの山を指先でつつきだす。
「……まだどこかにいんのかなー……」
指先が、スーツ、シャツの中を探る。
「うわっ……!」
康二は、大きく動くスーツの地面に足を取られ、思わず目の前に現れた巨大な指を抱きしめる。
すると、服の中を覗くその目が、指にくっついている康二を捉える。
「………ん?わ!本当にいた……うわ、ちっせー……!」
少女の瞳が大きく見開かれる。
「動いてる……ぷ。なにこれ、やばー……」
瞬間、康二の全身が、彼女の指に摘まれ、手のひらにすっぽり包まれた。
「ま、待ってくれ……!もっと優しく……!」
その叫びもむなしく、巨大な手のひらが軽く閉じ、康二は雑に持ち上げられる。
康二は、いきなり信じられない高さまで地面から離され、気が動転して思わず暴れ出す。
「わ、ちょ、ちょっと……くすぐったいんだけど……捕まえた虫みたいだな笑」
巨大な少女の、手のひらの上。
康二は自分の身長の何倍もある指先に囲まれ、まるで自分の命そのものを、片手で握られているような恐怖を感じた。
「あ、え、た、助かった!あの!縮小病に罹ってしまったみたいなんだ、急いで、救急車を呼んでくれ……!」
しかし康二は、気が動転しつつも、助けて欲しくて、声が裏返るほど必死に叫んだ。
こんな身体で、声がまともに届いているかどうかも分からないのだ。
少女は、康二の訴えをじっと聞いている——ように、見えた。
歳は……おそらく小学生だろう。
おしゃれな雰囲気の服に、幼なげながら、整った顔立ちをしている。
だが彼女のその後の行動は、康二の想像を裏切るものだった。
「…………」
無言のまま、少女は康二を見下ろす。
そして次の瞬間——
「……ラッキー♡」
ニヤッと、いたずらっぽく唇を歪め、
康二の叫びなんて聞こえていないかのように、少女はあっさりと言った。
「見てる人も…….いないみたいだし♪」
「えっ……?」
だが、康二が声を上げる前に、彼女のもう片方の手が動いた。
制服のスカートのポケットが、ゆるく開かれる。
その奥には、暗くて、柔らかそうな布の空間が、小人など100人入れられそうなほどに広がっていた。
「おい、待てっ…や……やめろっ、放せっ!おい、助けろって言ってるだろ!!」
彼女は、そのまま、まるで飴玉でも入れるかのように、軽々と康二を———
「小人ゲット〜♪」
ポケットの中へ、ぽすっと落とした。
「っっ……うわぁっ……!」
足元が沈み、柔らかな布に包まれる。
視界は一瞬で暗転し、温かく、こもった匂いが充満した空間に放り込まれる。
「おい、出せっ!! ここから出せぇ!! 俺は人間だぞ!! 縮小病患者なんだ、助けてくれぇ——!」
叫んでも、返事はない。
「おい……おい……っ!!」
そのときだった。
——バンッ!
突然、ポケットの外から、巨大な何かが、自分に向かってぶつかってきた。
「……っぐ……!」
衝撃とともに、康二の身体がぐらりと揺れ、視界がぐにゃりと歪む。
「……っ……ま……」
——そこで、意識が途切れた。
少女は、大人しくなるようにスカートのポケットを手で軽く叩き、そのままポケットに手を当てたまま、微笑む。
「いい子だから、そこで大人しくしてなさい♪」
そしてそのまま、足取り軽く、歩き去っていく。
他の誰にも、気づかれずに。
こうして縮小病患者・西澤康二は、名前もわからない少女に、こっそりと持ち帰られてしまったのだった。
—————————
……鼻がムズムズする。
乾いたホコリのような匂いが、鼻をついた。
「……っ、ん……」
意識が戻ると同時に、どこか異様な不快感が、康二の全身を包み込んでいた。
どこか饐えた、臭い、澱んだ空気。
身体を起こそうと腕を地面につくと、固い床の感触が指先に伝わる。
(フローリングか、これ…….)
埃っぽい。だが、何よりもまず感じたのは——
空間のスケールがおかしいことだった。
「……え……?」
目が覚めてすぐ、康二は、まず自分の目を疑った。
——四方に、壁がある。
正面にも、右にも、左にも、後ろにも。
広い空間ではあるが、いずれにも、茶色の壁がそびえ立っていた。
……いや、よく見れば、左右と後ろは木製の壁で覆われているようだが、正面だけ、違う壁のようだった。
何か、色々と書かれている。
これは……段ボール、か?
「まさか……」
呼吸が荒くなる。
自分の身体を見るも、服も、カバンも、スマホも……何もない。素っ裸だ。
「やっぱり、あれは……現実だったのか……」
全身から、じわじわと冷や汗が滲み出た。
「俺……縮んだんだ……」
縮小病に、罹った。
ようやく、その現実が、重くのし掛かるように彼の思考を支配するのだった。
「それでここは……どこなんだ……?」
前方にも、左右にも行き場はない。
唯一、正面の方向は、自分の身体の何倍もの高さの段ボールで塞がれてはいるが——そこだけは、その上の空間は開かれており、そこから光が差してくる。
そして、その方向には、巨大すぎて認識しづらいが、椅子が置かれているようだった。
「……これ……絶対、机の下だよな……」
間違いない。
自分は今、巨大な部屋の、巨大な机の下に閉じ込められているのだ。
まるで——逃さないよう作られた、檻。
その現実に、喉がひゅっと狭くなるような、息苦しさを覚えた。
「俺、ここに……閉じ込められてる……?」
ふと、俺を拾った彼女の顔を思い出す。無邪気に笑いながら、ポケットに押し込まれ、おそらく手で叩かれたのだろう。
あのまま、連れて帰られて——
「俺は……誘拐されてしまったのか……?」
——ズン……
突如として、地鳴りのような音がした。
康二は思わず身をすくめた。
——ズン、ズン……
規則的な振動とともに、床がわずかに揺れる。
まるで、地震。
だが、その音が、どんどんと大きくなってくる———
「来る……!」
次の瞬間、椅子越しに薄ら見える巨大なドアが、ガチャっと音を立てて開く。
そして、巨人が現れ、真っ直ぐここに向かってくるのが見えた。
ズン!!ズン!!!
「うっ……!」
康二は、反射的に床に伏せた。
……間違いない。
あの顔、自分を拾った女の子だ。
「……おい、起きてるか〜?」
声が空気を震わせ、康二の身体に重く響いた。
「お、起きてるな。ふふっ……やっと目ぇ覚ましたんだ。」
巨大な少女が、椅子を引く。
その音だけで、地面がガタガタと揺れる。
康二は慌てて後退し、壁際まで下がった。
少女は椅子に腰掛けると、机の下を覗き込んだ。
巨大な顔が、康二の閉じられた世界の上から迫る。
康二はゆっくりと顔を上げる。
「やっほー♪」
まるで、こちらの様子を見透かしているような、いたずらっぽい笑顔。
上から目線の角度で、好奇心に満ちたその瞳が、真っ直ぐに康二を捉えている。
彼女の背後から、部屋の天井照明が柔らかく差し込んでいたせいか、逆光のように、彼女が光をまとっているように見えた。
巨大な瞳。通った鼻筋。柔らかな頬。
——肌も綺麗で、睫毛も長い。
どこか生意気そうな表情ではあったが、目元のラインは繊細で、輪郭も整っていて、光の加減やその巨大さも相まって——
(……女神……?)
現実逃避か、ふとそんな言葉が脳裏をよぎった。
しかしーー
「あたし、縮小病の小人って直接見たの初めてー。ホントにあるんだねぇ〜、カワイソ〜w」
すぐに現実に引き戻される。
康二は、まともに声が出せなかった。
その顔の大きさ、瞳の奥の興奮、すべてが恐ろしかった。
康二は震える身体に鞭を打ち、必死に巨人に話しかける。
「……た、頼む……助けてくれ……俺は……西澤康二っていう人間で、救急車を呼んでくれないか。会社や恋人にも連絡したいんだ……」
「え?…….人間、ねぇ……?」
笑みを浮かべたまま、少女が首をかしげる。
「でも、今のお前……ただの小人じゃん?知ってるよ?縮小病って、もう治んないんでしょ。」
「い、いや……!それは、まだ治療法がないってだけで…..!とにかく連絡してくれ…..!」
「はい、却下〜♪」
その言葉とともに、彼女は歯を見せ笑いながら、楽しそうに言った。
「お前は、今日からそこで生きていくの。これは決定事項でーす♪」
「なっ……」
「あ、私、東條ゆいっていうの。小学5年生だよ。これからは、この私の勉強机の下が、あんたのおうち。正面はダンボールで塞いだし、逃げられないでしょ?逆に虫とかも入ってこれないと思うから、安心して♪」
「ふ、ふざけるな……!」
康二が叫んだ瞬間、ゆいの目が鋭く細められた。
「……ふざけてないんだけど?むしろ、誰かに踏まれたりする前に拾ってやったんだから、感謝すべきじゃない?」
「……っ……」
そのまま、彼女は椅子に座ってスマホを手に取り、
康二を写してカシャ、とシャッター音を鳴らした。
「早速、観察日記でもつけよっかな〜♪
『小人がやっと目覚めた。ビビりすぎでちょっとかわいい♡』……っと」
「……ここから……出せ……!」
机の下の暗がりで、康二は必死に叫び続ける。
「俺をここから出せ……!これは誘拐だぞ……犯罪だ……!警察に……通報するぞ……!」
喉が擦れて、声がかすれても構わず、段ボールの壁を叩き、遥か頭上の、スマホを見ている少女に向かって叫び続ける。
だが、その必死の抵抗を、ゆいはただ、めんどくさそうに見下ろす。
「ちっ……キーキーうっさいなぁ……」
椅子に座ったまま、足をぷらぷら揺らしながら、ゆいは小さくため息をつく。
「人間サイズだった頃のプライドとか、いい加減捨てた方がいいと思うけど。私を不機嫌にするだけって分かんない?」
そう言いながら、ゆいは右足を持ち上げた。
そのまま今日1日履いていたであろう黒いくるぶしソックスが、ゆっくりと引き抜かれる。
そしてそのままそのソックスを、机の下に持っていく。
「……っ……」
その瞬間、康二の周囲の空気が変わった。
むわっっっと、一日中履き潰された布に染み込んだ、汗と皮脂の酸っぱい匂いが、机の下に流れ込む。
「……くっ……!」
康二は反射的に鼻を押さえ、後ずさった。
「な……なんだよ……その……くっさ……!」
「んー?あ、これー?w」
ゆいはニヤニヤしながら、脱いだソックスを指先で左右に揺らす。
「これは今日、ずーっと履いてたやつ。体育もあったし、けっこー臭いかも?」
悪意も隠さない笑顔で、ゆいはそれを——
「ぽいっと♪」
机の下に、投げ捨てた。
どさっっ!!
康二のすぐ目の前に、巨大な黒い布の塊が落ちる。
自分の身体の何倍もの大きさのソックスが、濃い臭気を撒き散らしていく。
「うっ……おえっ……!」
康二は思わず胃が逆流するような感覚に襲われ、慌てて後ろへ逃げた。
「やめろ……!こんな汚いもの……近づけるな……!」
机の壁に背中をぶつけながら、必死に距離を取ろうとする。
だが。
「にゃっはっはっ!」
康二の反応が思いの外良かったからか、上から楽しそうな声が響いた。
「よーし、もう一ついくぞぉ♪」
ゆいが、左足をひょいと持ち上げる。
するすると、ソックスが引き抜かれる音。
そして今度は、靴下を摘んだままの手が、どんどん康二に近づいて来る。
「……ちょ……待て……やめろ……!」
「えー?聞こえなーい。今度は当ててみせるぞー♪」
そして——
「……それっ!」
ゆいは、今度は狙いを定めて康二めがけてソックスを放った。
ばすっっっ
どさっ、と重たい音。
「うわああああああっ!!」
巨大な黒い布が、康二の上に覆いかぶさる。
「にゃっはっは、よーし、命中〜!笑」
湿った繊維と、ぬるい体温、そして何よりも、そこに染み込んだ、強烈な汗と皮脂の匂いが、康二に襲いかかる。
「ぐっ……はあっはあっ…..くっさ……!……息が……!」
必死にソックスを押し上げ、這い出そうとするが、自分の何倍もの重さの布が、身体を押さえつけ、まともに動くことすら叶わない。
(くそ、靴下から抜け出すことすらできねーのかよ….!)
「う……うう……!」
数分後、ようやく靴下の巨大布団から顔を出し、もがくように這い出す。
「……はぁ……はぁ……」
しかし、呼吸は楽にならない。
鼻と喉の奥に、臭い湿気が、べったりと残っていた。
怒りと恐怖で震えながら、康二はゆっくりと顔を上げた。
そこに見えたのは——
椅子にどっかりと座り、
机の縁から顔を覗かせ、
ニヤニヤと笑いながら、この檻を見下ろす、巨大な少女の顔だった。
ゆいの目が、楽しそうに細められる。
「お、出れたんだ、おめでとー♪…….あ?そんな顔すんなよ。連絡とか笑えない冗談言うからさぁ、ちょっと遊んだだけじゃんw」
康二はその視線に晒されながら、言い返す勇気も起きず、黙ってしまう。
(……こいつ、狂ってる。だが、ここで言い返しても、何もならない….余計怒らせるだけか………)
「おい、何か言えよー笑。ま、いいや。お互い足下で使われるもの同士、仲良くなっとけよ」
康二はゆいの好き放題の言葉にも、何も言い返さず、ただじっと堪えるのだった。
黒いソックスが二つ、机の下の床に転がっている。
それだけで、この空間の空気はすっかり変わってしまっていた。
目を覚ました当初は、元々足が日常的に置かれていたのであろう、足の臭いの残り香で、微かに饐えた臭いが漂っていた程度であったが、今はもはやそんな生優しいレベルではない。
康二の鼻の奥には、さっきからずっと、あの重くてじっとりした、ツンとした匂いがこびりついたままだ。
「……はぁ……はぁ……」
息をするたび、胸の奥までその空気が入り込み、気持ち悪くなってくる。
限られた空間の中、できるだけ、2つのソックスから離れた場所に身を寄せる。
「……ここなら……少しは……マシ……か……」
ほんのわずか、臭気が薄くなったような気がした。
ここなら、あの布の塊から、少しだが距離が取れる。
だが——
頭上から、ゆいの低い声が降ってきた。
「……..おい、逃げんな。あたし、靴下と仲良くしろって言ったよな?」
ギシ、と椅子が動く音。
その直後——
急に、辺りが暗くなった。
「……な、何だ……?」
恐る恐る見上げた康二の視界に、巨大な影が、ゆっくりと降りてくる。
「……あ……」
それは、ゆいの素足だった。
靴下を脱いだばかりの、まだ熱を帯びた、薄いピンク色の足の裏。
うっすらと汗に濡れ、ところどころゴミのようなものがこびりついていた。
その足の裏が、康二の頭上で止まる。
「……っ……!」
その瞬間、空気が更に変わった。
熱のこもった、むっとする、濃い臭気。
さっきのソックスとは次元の違う、洗濯後のソックスを臭くした、元凶。
康二は周囲の空気に色がついたのではないかと錯覚するほどの、毒ガスのような臭いに、堪らず嘔吐を繰り返した。
「うっ……おえ……おえ!」
「ギャハハハ!」
ゆいが、臭いよ拡散しろとばかりに、足指をくにくにと動かす。
「うりゃ、うりゃ。昨日風呂キャンしてるからくせーだろ♪今日は初日だし、靴下だけにしといてやろうと思ったけど、生意気に逃げやがったからな。そんな優しい考えは捨てるわ。ほら、もっと嗅げ嗅げー♪」
指が動くたび、空気がかき混ぜられ、匂いがさらに強く、机の下に充満する。
「……や……やめ、ろ……」
康二は堪らず膝をつき、床に転がり、必死に床を這う。
しかし、周りを取り囲む、机と段ボールの壁。
周りには、巨大な靴下と、頭上には巨大な左足の裏。
逃げ場など、最初からないのだ。
「……はぁ……はぁ……」
目が刺激臭で潤み、喉が焼けるように痛む。
頭がぼんやりして、身体の感覚が鈍くなっていく。
「なんだよー……大げさだなぁ?」
ゆいはあきれたように言いながら、康二を見下ろした。
「SNSで踏んで躾ける動画があってさ、まだ反抗したり生意気だったら今度は踏んづけてやろうと思ったけど……」
ずんっっっっっ!
踵が、床につく。
(……..?)
康二は臭気が少しマシになったことに気づき、這いつくばったまま顔を見上げると———-
目の前に、踵が床についた……..あまりにも巨大な左足の裏が、自分を見下ろすように、立ちはだかっていた。
(………..こ、これが、たかが小学生の、足の裏だっていうのか…….)
自分と圧倒的なまでの大きさの違いに、康二は心底打ちひしがれた。
「これじゃ踏んづけるまでもねぇわ。臭いだけで這いつくばっちゃうなんて、ほんと——ざぁぁこ♪」
「……っ……!」
まるで、目の前の足裏から言われたようなその一言に、康二の瞳に涙が溢れる。
誇りも、抵抗も…….小人となり、この机の下の狂った世界では、すべてが滑稽に思える。
「おい。ちゃんと臭い、吸ってるか?」
再び足が…….今度は足指が顔の目の前にやって来て、ゆっくりと開き、康二のすぐそばの臭気をより濃くしていく。
「早く慣らした方がいいぞ?だって……..」
ゆいがニヤッと口許を歪ませる。
「これが、これからお前が毎日吸う空気になるんだからさぁ!ぎゃはは!」
笑い声が、低い天井に反響する。
康二は、ただ、その巨大なつま先を見つめながら、荒い息を繰り返すことしかできなかった。
ーーーーーーーーーーーーーー
足指を目の前に突きつけて、康二が床にうずくまり、荒い息を繰り返しているのを、ゆいはしばらくの間、上から眺めていた。
靴下や素足に囲まれた狭い空間の中で、小人がのたうち回る様子は、見ていてなかなか飽きない。
しかし、もう体力の限界なのか、蹲って動かなくなってしまった。
「……ふん」
彼女はつまらなそうに、つま先で床を軽く叩く。
「自分の立場が、わかったか?」
そう言うと、彼女は足をゆっくりと床に下ろした。
ずしん!と、机の下の空間に伝わる。
康二のすぐ目の前に、さっきまで宙にあった巨大な足が置かれる。
「……っ……!」
その瞬間、また匂いと熱が押し寄せる。
だが、ゆいはもう彼に視線を向けていなかった。
「〜♪」
スマホを手に取り、画面をスワイプし始める。
机の下で何が起きているかなど、
もはや大した関心事ではないかのようだった。
「……」
康二は、床に伏したまま、その様子をぼんやりと見上げる。
段ボールの壁の上から見えるのは、椅子に座ってスマホを覗き込むゆいの姿。
しばらくすると、鼻に突き刺さっていた匂いが、少しずつ薄くなっていくのがわかった。
(……あれ……?)
最初は、ただ耐えがたい刺激だったはずの空気が、
いつの間にか、そこまで酷い匂いではなくなってきている。
(……鼻が……麻痺してきてるんだ……)
それが良いことなのか、悪いことなのか、もう考える余裕もなかった。
その代わりに、別の感覚が、じわじわと主張し始める。
———空腹。
「……」
康二は、自分の腹部に手を当てる。
朝から、何も食べていない。
会議続きで、昼食も取れず、そのまま営業に出ていた。
そして、こんなことになってしまったのだ。
(……もう……夜……だよな……はは、こんな時でも、腹は減るんだな….)
お腹が、ぐう、と小さく鳴った。
(俺を飼うとか言ってるんだ……食事は、出るはず…….)
しかし、この少女のことだ。食事なんて考えてないかもしれない。
康二は意を決して、遥か頭上に位置する少女に、声をかける。
「あ、あの、俺のご飯はどうなるん、でしょうか!」
今までの行為を思い出し、少し及び腰になりながらも、ゆいに声をかける。
だが、ゆいはスマホに夢中で、こちらには気づいていないようだった。
康二は、真正面を見つめる。
臭いと熱の発生源である巨大な足指が、すぐ目の前に並んでいる。
(……近づきたくない、が。背に腹は代えられん……)
そう思い、彼はよろよろと立ち上がった。
康二は、一番近い親指の先っぽに、両手で触れる。
(…….こいつ!!)
そして、力いっぱい叩いた。
だが、それはゆいにとって、くすぐったい刺激にしかならなかった。
「ん?」
ゆいの指が、ぴくりと動く。
「……なに、くすぐった……」
そう言いながら、足指が無意識に蠢く。
「———うわっ……!」
足指が少し動き、ぶつかっただけで、康二の身体は、風に吹かれた木の葉のように弾かれる。
床を転がり、背中を打ち、視界がぐらりと揺れる。
「……ぐ……くそっ……」
頭がくらくらする。
「なにしてんだ、お前?」
ゆいが、机の下を覗き込んだ。
その巨大な顔が、影となって康二に覆いかぶさる。
「足指くすぐったいんだけど。ご主人様に、なにか用?」
完全に、下と突きつけるような視線で、康二を見下ろす。
康二は、唇を噛みしめた。
「……あの……」
何故か、たかが小学生と話すのに、とても緊張する。
「……なにか……食べ物……ありませんか…….」
ゆいの眉が、わずかに上がる。
「へぇ……ごはん?」
くすっと笑う。
「……しょうがないなぁ。ま、ご飯の用意はご主人様の仕事だもんね。」
そして、目の前の左足が持ち上がり、つま先で靴下を指差す。
「お前のご飯なら、靴下の奥にすでに用意してあるぞ?」
「……え……?」
「え?じゃねぇよ。お前が逃げやがった靴下だよ。ごはんならそのつま先のほうにあるから。お腹空いたなら勝手に入って、勝手に食べれば?」
そう言って、ゆいはまたスマホに視線を戻してしまった。
「……」
康二は、ソックスを見た。
さっきまで、必死に距離を取っていた、あの——臭い布の、塊。
「……あの中に……?」
いつご飯を入れたんだろうか。
だが、靴下の中に入れるくらいだ。
凡そ、まともなものではないことだけは察せられた。
それでも——
グゥー………
目の前に食べ物があると告げられて、腹が強く鳴る。
「……くそ……」
康二はゆっくりと、黒いソックスへと歩み寄った。
未だに強い臭気を発し続ける、近づくだけで吐き気がする、彼女の履き物。
「……これに、入るのかよ……..」
歯を食いしばりながら、その入り口に、足を踏み入れる。
むわっっっと、濃い臭気が顔を包む。
「……っ……」
目が潤み、喉が焼ける。
布に染み付いている体温と汗の残り香が、康二を包み込む。
堪らず咳き込んでしまう。
「ゴホ、ゴホッ!!」
それでも、進むしかない。
「……生きる……ためだ……」
自分に言い聞かせながら、康二は、自ら進んで、靴下の中へと潜り込んでいったのだった。
黒いソックスの中は、想像していた以上に異様な空間だった。
「……くそ……」
康二は、布の入り口をくぐった瞬間、思わず立ち止まった。
むわっとした空気が、顔にまとわりつく。
小学生が1日中履いていた、くるぶしソックス。
新陳代謝が活発な女の子の汗をたくさん吸ったそれは、入り口の時点で、すぐに足裏に接する部分から強烈な臭いを漂わせ、康二を襲う。
「……うっ……」
一歩踏み出すたび、くちゅ、くちゅ……と、汗をたっぷり含んだ床に、足が沈み込む。
染み込んだ汗が、足の裏にまとわりつくような感触がした。
「……気持ち悪い……」
鼻を押さえたくても、両手は頭上の布を抑えるのに使い、バランスを取るので精一杯だ。
暗くて、前もほとんど見えない。
「……ご飯……が……あるって……言ったよな……」
ゆいの言葉を思い出す。
靴下の奥に用意してあると。
康二は歯を食いしばりながら、その言葉を信じ、ゆっくりと奥へ進んだ。
くちゅ……くちゅ……
「……くそ……俺が……こんな……」
社会人として立派に生活を送っていたはずの自分が、今は子供の靴下の中を、手探りで進んでいる。
「……ここが……最奥……か……?」
丈が短いソックスだったこともあり、比較的早くつま先部分に辿り着いた。
康二は視界が悪い中、必死に手を伸ばし、辺りを探る。
「……どこだ……食べ物……」
それらしいものがないか、何度も確かめる。
だが——
「……ない……?」
あるのは、気持ち悪い感触の汗ばんだ布の感触と、所々付着している粘ついた垢の感触だけだった。
「……ないぞ……」
もう一度、念入りに探す。
しかしやはり、どこにも食べ物らしいものは見つからない。
「……騙したな、アイツ……!」
怒りが、じわじわと込み上げてくる。
康二は、ソックスの中から急いで這い出した。
そして、すぐそばにある、ゆいの素足へと向かう。
「……おい……!」
震える拳で、足の指を叩く。
「……なかったぞ!食べ物なんてどこにも……!」
すると、足の指がぴくりと動く。
「……ん?」
ゆいの声が、少し間の抜けた調子で返ってきた。
「いや、あったでしょ?」
すると、机の上からゆいが顔を覗かせる。
楽しそうに、目を細めながら。
「……あたしの、足の垢が」
「……え……?」
「だーかーらぁ、足のあーか!お前はこれから腹が減ったら、あたしの足の垢を食うんだよ。小人のごはんなんて、それで十分だろ?」
康二の顔が、絶望に染まる。
一拍の、沈黙。
そして———
「…….ぷ。ギャハハハ!」
ゆいの笑い声が、机の下に響き渡った。
「なんだお前、その顔。ウケる笑。まさか、人間様が食べる普通のご飯が入ってるとでも思ってた?…..ばーか。靴下の中って時点で気づけよ笑。お前の生活は、あたしの足下で完結するんだよw」
康二の頭が、真っ白になった。
「……う、うそ、だろ……」
「ぷ。残念ながら、現実でございますw」
その言葉が、康二の心を深く突き刺した。
(…………….)
康二はただ、もう何も考えられず、その場に呆然と立ち尽くすのだった。
「……ほら、分かっただろ?お前の唯一のごはん。分かったら早くまたソックスの中に入って取ってこいよw」
机の下を覗き込む、彼女のニヤついた顔。
その巨大な表情は、康二がこの後どうするか観察するように、じっと見つめている。
しかし、康二はうつむいたまま、口を開かない。
その姿を見て、ゆいはわざとらしく少し首を傾げた。
「んー、食べないのか?せっかく用意してやったのにー……あ、そっか。大人だもんなぁ、アレだけじゃ足りないってことか。じゃあさ——あたしの足にくっついてるゴミも、食っていいよ?」
「……っ……?」
「ほら、指の股とかさ。爪の中とか。そこからだとよく見えるだろ?」
ゆいは無造作に康二の目の前にある左足の足指を広げ、指の股に付着している汚れを見せつける。
「ふふ、良かったな!昨日から使い込んだ足だから、今ならまだ沢山あるだろ♪」
そのままぐに、ぐにと足指を動かしながら、彼女は気軽に続ける。
「おい、なにじっとしてんだ。あたしが風呂入ったら、そこにあるごはんは全部なくなっちゃうぞ?いいのか?ほら、急げ急げー♪」
「……っ……!」
…….ふざけるな。
顔を下ろし、ずっと床を見つめていた康二だったが、顔を上げ、ニヤつくゆいをじっと睨みつける。
そんな反抗を見たゆいは、笑顔を消し、瞳をすっと細める。
「………生意気だなぁ…..はぁ、まだ分かんねぇのかよ。おしおきだ。」
目の前の左足が床から離れ、宙に浮かぶ。
そして、康二の頭上に来るようにセットされる。
するとすぐに、悪臭を発する巨大な足裏が、康二を思い切りフローリングの床に押し付けてきた。
——ずしん!!
「がぁっっっっっ!!」
つぶれる。
「……っ、くそ……俺が……なんで……」
毎日努力して、勉強して、仕事も評価されてきたところだった。
彼女とだって、上手くいっていた。
人生、これからだったんだ……..これから。
それが、こんなたった一日で……全部、めちゃくちゃにされて……。
——ぶわっ
足が踵だけ床につけたまま、持ち上がる。
康二は一瞬だけ汗で足の裏にくっつくが、もがくと床に落ちた。
「はぁ……はぁ……」
足裏から解放され、荒く息をつく。
しかし、足は踵を床につけたまま、離れない。
(…………?)
不思議に思っていると———
——ずしん!!
足の裏が再び降りてきて、康二を床に押し付けてきた。
ぐぐっ、と身体が押し潰され、空気が肺から抜ける。
まるで、吊り天井のようだった。
「がはっ………うぐっ……やめ……ろ……」
指一本動かせない。
重く、臭く、生温かい天井が、ギリギリ潰れない程度の力で、康二を床に抑えつける。
すると暫くして、また足が踵をそのままに、上がっていく。
「……はぁ、はぁ。も、もう、やめてくれ!わかった、わかっ」
——ずしん!!
「うぶ!!……」
また、潰される。
「………………」
彼女は、何も喋らない。
それがまた一層、康二を怖がらせた。
そしてまた、暫くして足の裏が上がるも、息つく暇もなく、また降りてきて、潰される。
——ずしん!!
(ぐぅ………….!!)
康二は段々と、自分の意識が遠くなってくるのを感じていた。
また、天井が上がる。
「……お願い、します…..お願い……..もう、やめてください……」
康二は疲労困憊の身体に鞭をうち、なんとか土下座の体制を作り、目の前に聳え立つ足の裏に向かって、涙を流しながらそう呟く。
しかし———
——ずしん!!
「……っ……」
土下座の体制のまま、踏みつけられる。
潰される重みに、必死に歯を食いしばり、耐える。
康二はパニックに陥っていた。
(ど、どうすれば…….どうすれば許して貰える?)
すると、はるか頭上からまるで天啓かのごとく、ゆいの言葉が発せられた。
「小人のくせに、人間様の言葉で許してもらおうとするな。ちゃんと態度で示すんだな。」
(…….た、態度?態度ってどうすれば………)
また足が上がり………
———ずしん!!!
踏みつけられる。
(ぐっっっっっ!!も、もう、次はおそらく耐えられない!)
目の前を覆い尽くす、足の裏。
よく見てみると、ゆいの言っていたごはんである、黒ソックスの繊維と混ざった垢が、所々に付着していた。
(……そうだ、元はといえば、食事に反抗的な態度をとったのが原因なはずだ…..)
もう、迷っている暇はない。
俺は震える身体で口を開き、必死に目の前の肌色の天井に向けて、舌を這わせた。
ペロ…..ペロ…..ぴちゃ…..ぴちゃ……..
「……あはっ♡」
すると、ゆいの笑い声が机の上から、軽やかに降ってきた。
そして、足が踵ごと持ち上げる。
(…….ゆる、されたのか……..?)
思わず足の主の顔を見ると、やれやれ、と呆れた顔をしていた。
「やっとわかったのかよー?ほんとトロイなぁ。」
するとまたすぐに目の前につま先が置かれ、巨大な足の指が開かれる。
指の股には、相変わらず垢が大量に付着していた。
「ほら、もうわかっただろ、早く食え♪」
——ああ、ようやくわかった。
——俺はここからは、絶対に、逃げられないんだ。
——これからの俺の人生は、もう、ここだけなんだ。
康二は、もはや抵抗する気もなく、ゆっくりと、足の指の隙間に身体を潜り込ませていった。
ぺろ….ぺろ……モグモグ……..
しょっぱくて、不味い。
足垢を食べるたび、自分が人間だった記憶が霞んでいくように感じた。
「……ふふ、くすぐってーw……..いい子いい子、たーんとお食べ笑」
(……俺の人生は、こんな、頭のおかしい奴に……弄ばれて……終わるんだな……)
涙が止まらない。
(……仕事も……プライベートも、これからだったのに……ちくしょう………ごめん……香織…….……)
涙と混ざり、より一層しょっぱくなった足垢を食べながら、康二はこれからの日々に絶望するのだった。