皮に包まれメイド喫茶で働くことになった少年の話 1
🕑 Added 2021-02-06 03:29:06 +0000 UTC
「それでは志望動機を教えて頂けますか?」
「えっと……」
ここで取り繕っても意味は無いよな。そもそもアルバイトに高尚な目的なんて持ってるわけじゃないんだし。
「すみません、正直に言います。急ぎでお金が必要なんです。求人雑誌を見たらここの時給が良かったので選びました。」
そもそもお金が必要になったのだって本当に急な話なんだ。
いつものように教室で弁当を食っていたら何気ない感じで話を振られて教えられたわけだし。
「そうだ。この前頼まれていたカード、落札出来たよ。」
「え、マジで? うわ、ありがとう。持つべきものは親友だな。で、いくらだった?
「10万100円ね。」
「……は?」
確かに。欲しいカードが出展されているから代わりに落札して欲しいと頼んだのは俺だ。自分でやれとも言われたけど、うちは親の監視が厳しいからスマホでオークションサイトを利用するだなんてとてもできない。
その辺の事情も説明して頼んだんだが、いくらなんだってその金額は高すぎるだろ。
「だから、10万100円だって。先に決めていたよな? 『いくらかかってもいいから落札する』、『競合相手がいた場合は100円刻みで上乗せしていく』。相手もなかなか粘っていたからさ。向こうは10万円が上限だったんだろうな。最後の100円上乗せで諦めたみたいだ。」
「いやいやいやいや。待てって。いや、確かにいくらかかってもと言ったかも知れないけどさ。その金額はないんじゃないか? たかだかカード1枚だろ? せいぜい数千円だと思うじゃん。」
実際、俺の予算としては高くても1万円くらいのつもりだった。普通に考えてそんなもんじゃないのか?
「その『たかだかカード1枚』をいくら出してもいいと欲しがったのはお前だろ。同じように大金積んでも欲しいってヤツが他にいたって不思議はないよな。それに、先に上限も聞いたじゃないか。それでもいくらでも出すんだって鼻息荒くしてだろ。」
「そうかも知れないけどさ。流石にその金額は想定外だって。悪いけど今回は……」
「言っておくがキャンセルはなしだぞ。落札しておいてキャンセルしたなんてことをしたら俺の信用度に関わってくる。だから最初から自分でやれって言ったじゃないか。」
そんなこと言われたって、俺にも出来ない理由があったんだよ。
「一応立て替えてカードは受け取っておくよ。もし払って貰えないならそのままもう一度オクに流からな。その場合、高く売れて回収できればいいけどもし安くしか売れなかったら差分だけは払ってもらうからな。」
すぐに出品すれば例の競合相手が10万円で落札してくれるか? いや、でも他に値を吊り上げるやつが居なかったらもっと安い段階で決まっちゃう可能性もあるのか。
そうなったら俺は金だけとられてカードも手に入らなくて、最悪じゃないか。
「払えないなんて言うなよ。そんなことになったらお前のオヤジさんに相談するからな。」
「そっ、それだけは勘弁してくれ。」
オヤジにこんなこと知られたらどうなるか。殺される……ことはないと思うけど、高校をやめて働けとか言われかねない。
「はぁ。元々無理言って俺のアカウントで落札するように頼んできたんだろう? 支払い期限は一週間。それを超えたら出品するしオヤジさんにも話す。いいな。」
「うぅ。分かったよ。何とかする。」
とは言っても俺の手持ちには2万円程度しかない。通帳にならもうちょっとあるはずだけど親が管理してて自分で下ろすのは無理だ。
「はぁ。こうなる気もしてたんだよな。ほら、コレ。」
「コレ、って? 求人雑誌?」
「あぁ。金を稼ぐってなったらアルバイトでもするしかないだろ。」
「いやでもさ、うちの学校ってバイト禁止じゃないか。」
オヤジに伝えられるもまずいけど、バイトして停学や最悪退学になんてなったら結局同じことだ。
「分かってる。けどほら、これ見てみろよ。メイド喫茶がウェイトレスを募集してるだろ。顔を隠しての勤務可能ってあるぞ。それにここ、時給も他のバイトよりも頭一つ抜けてる。」
「待て待て。メイド喫茶でウェイトレスなんて男が出来るもんじゃ……『経験、性別を問わず』ってあるな。マジか? コレ」
「今のご時世だからさ。募集の際には性別を指定出来ないだけで行ってみたら他の理由を付けて落とされるってことかも知れないけどな。けど他に稼ぐ手段あるのか?」
そんなものはない。
「分かった。まずは電話して聞いてみる。大丈夫そうなら面接受けてみるよ。それでだめなら……オヤジに内緒にしてくれるように頼みながらばあちゃんに土下座かなぁ。」
「お前んとこのばあちゃん、甘いもんな。俺としては払ってさえ貰えればなんでもいいんだ。頑張ってこいよな。」
そして電話掛けてみたところ、早速放課後に面接をという話になったわけだ。ちなみに履歴書すら求められなかった。甘すぎて逆に心配になるレベルだ。
「急ぎで、とのことですが具体的にはどれ程度の期間でどの程度の金額を希望されていますか? それと目標金額を達成したらすぐに辞めてしまうということでしょうか。」
「あー、その。1週間で8万円を稼がなくっちゃならないんです。でももし稼げてもすぐに辞めるつもりはありません。正直言ってここの時給は他と比較しても破格だったので。」
これは本音だ。中学の頃に親の紹介でスーパーのアルバイト……というかお手伝いレベルだが。したことがあったけど、時給が倍以上違う。顔を隠せるならバイトが禁止されてるうちの学校でも働けるし、このチャンスは逃したくない。
「ふむぅ。本当に緊急なんですねぇ。でもその金額ですと1日で1万円以上、うちの時給で考えても学校との両立では難しくないですか?」
「え……あ。」
しまった。単に時給が高いってことしか考えてなかった。
「それと、そちらの学校はアルバイト禁止ですよね。学校に知られたら問題はありませんか?」
「そこはその、こちらのアルバイトは顔を隠して働けるってことだったのでバレずにいられるかなと。でも8万円を達成できないとなると……すみません。時間を取って貰っていて悪いんですがちょっと考えさせてください。」
1週間は無理でもちゃんと稼ぐ当てが出来たってことで相談すれば期限を延長して貰えないかな。。
「状況は何となくわかりました。でしたらこちらから一つ提案をさせて頂けませんか。」
「提案?」
「はい。こちらの条件を飲んで頂ければ、時給を割り増ししますしバイト代の先払いで10万円をご用意いたします。いかがです?」
それは願ってもない話だ。けど手放しで喜べるほど単純でもない。
「条件、ってなんですか?」
重量なのはこれだ。
「そうですね。少し話は変わりますが、うちの店舗の方は先ほど見て頂きましたよね? どう思いました?」
「どう、って言われても。えっと、メイド喫茶ってみんなお揃いのコスチュームなのかと思っていたら人によって結構違ったんで驚きました。後、どう見ても小学生っぽい子が居たりとか年齢の幅が広いな、と。」
「素直な感想ありがとうございます。あ、年齢に関してはちゃんと確認していますから、あんな姿でもちゃんと義務教育は終えていますから大丈夫ですよ。」
まあ確かに。成人しててもそうは見えない人も居るからな。
「それで、コスチュームの方なんですがご指摘の通り皆さん異なるものを着用して頂いています。その中にですね、他の方が着てくれないものがありまして。アナタにはそれを着てもらいたいのですよ。あ、勿論素顔は隠せるのは前提ですからそこの心配はいりません。」
他の人が着たがらないコスチューム? それって際どかったりするのか? でも顔を隠せるなら恥ずかしくないのかも。
っていやいや。言ってもメイドだろ? 本来なら女性向けの服だろ? もし際どいんだとして、顔がバレないとしたって男がそんなの着たらマズいんじゃないか?
「そんなに悩まなくても、決断する前にどんなコスチュームかはお見せしますよ。むしろ今から見てみます? 別に見たからって必ず引き受けろなんて言う気もありませんし。」
「それならお願いします。」
なんだ。先に見せてくれるなら最初から頼めばよかった。
「ではこちらにお越しください。倉庫にご案内します。」
「あ、はい。」
事務所を後にして、廊下を抜ける。突き当りの扉を開けた先は下りの階段だった。
ここって1階だったよな。地下室がある、ってことなのか。
「こちらがコスチュームの保管部屋です。」
「うわっ!?」
思わず変な声が出た。倉庫というからてっきりメイド服が並んでいるのかと思っていた。確かに部屋の3分の1くらいはカラフルなメイド服が吊るされている。
ただそれよりも目を奪われたのは、メイド服よりも遥かに広い場所を取って吊るされていたコスチューム。いや最初はコスチュームだとも思えなかった。一見したときのイメージは、並べて吊るされた人間だった。
ただ人間にしては厚みが感じられない。よく見ればペラペラで、全身タイツの様なものだと分かった。それでも全身タイツと比較すればそれなりに厚みはあるみたいで、しっかり人の身体を保っている。
それと、全身タイツなら顔の部分がくり抜かれて自分の顔を出せるはずだ。吊るされているのはどれも顔まで作られていて、着たら文字通り全身が余すところなく覆われて自分の肌は全く見えなくなるって代物だった。
「驚かせちゃいました? これはメイド服の下に着るためのインナーです。うちの店ではメイド服と区別するために皮って呼んでますけどね。」
皮、と言われてしっくりときた。確かに人の身体の中身を抜き取って皮だけを吊るしているみたいな印象だ。
「アナタに着て頂きたいのは……えぇと、確かこの辺りにあったと思うんですけど。もうちょっとこまめに整頓しなきゃですね。あ、ありましたこちらです。」
奥から取り出してきた皮を渡される。改めて見ると布というよりも人の肌そのものに見える。毛こそ生えていないもののしっかりと毛穴まで再現されている。
ひょっとして店にいたメイドの中にもこの皮を着て顔を隠しながら働いてる人が居たのか?
「なんか……凄いですね。」
肩部分を掴み、広げてみる。厚みにはばらつきがあって、胸元やお尻の辺りは特に厚く作られているみたいだ。なるほど、これを着れば男でも女性みたいな体型になれるってわけか。男女問わずってのはこれを着る前提だったんだろうな。
いやでもメイド喫茶で働くような女性なら自分に自信があるだろうし、こんなのは着ていないのかも知れない。だからこそ俺に着てくれって言ってきたんだろうし。
皮の顔も確認する。こっちもしっかりと作られていて、顔の作りがはっきりと分かる。確かにここをペラペラにしちゃったら本人の顔が想像出来たりするかもしれないしな。
顔つきは可愛いというよりも美人寄りだ。店舗ではかつらを被っていたのか金髪や茶髪、ピンクや水色なんて髪の毛のメイドが居たけれどこの皮は落ち着いた黒髪だ。
「どうです? それを着て働いてみる気はありますか? あ、勿論それはインナーですから上にメイド服を着ることになりますけどね。」
「これを着て働けば、バイト代を前借り出来るってことでいいんですよね?」
「はい。お給料の割り増しも合わせてお約束します。」
確かに魅力的だ。けどもう一つ気になることもある。
「これ、俺よりも随分と大きいみたいですけど大丈夫ですかね。」
恥ずかしながら俺は150cm程度しかない。いや、まだ高校生だから。まだ育ち盛りで、身長はこれからいくらでも伸びるからそれはいいんだが。この皮は俺よりも頭一つ分くらい身長が高い。
流石にこんな大きいのを着て働くとなるとダブついた部分が邪魔になりそうだ。
「それでしたら補正が出来ますから大丈夫ですよ。」
「そうなんですか。」
丈を詰められるってことかな?
「分かりました。えっと、その条件で働かせて貰えますか。」
「喜んで。じゃあ上に戻って契約書にサインをお願いしますね。ところでどうです? 早速ですけれど今日これからお店に出ることも出来ますか?」
「今日から、ですか?」
面接だけのつもりだったけど、ここまで親切にされたら断るのもなんだよな。それに時間ならあるわけだし。
「えっと、じゃあお願いします。」