けもの道☆ガーリッシュスクエア第0話SS「森野球美の場合」後編
🕑 Added 2023-05-01 05:52:26 +0000 UTC3
謎のクマさんは自分で歩くことを放棄していたので、アパートへの残りの距離はなかなか過酷でした。
クマさんはみっちり中身が詰まってて、見た目の割に重いのです。
「はあっ」
やっとたどり着いた我が家の玄関にクマさんを置くと、さっそく「ぐーっ」ておなかがアピールしてきました。
「わかったから! えっと……ご、ごはんはいいけど……」
「ガウ?」
「キミは何を食べるの? しゃべるクマのぬいぐるみはわたしにとってあまりにも未知の存在で」
「……おなじの」
「同じって?」
「くみとおなじの」
「うーん、なんでわたしの名前知ってるのかなー……」
そういえば、さっきも名前を呼ばれた気がする。
これって考えたら負けなやつなんでしょうか。
「……うん、おなか空いてちゃ頭も回らない。とりあえず作ろう! わたしと同じのだったらチャーハンね」
ぐー。
「おなかで返事しないの」
もしかして横着してるんでしょうか?
ちょっとの疑惑を抱きながら、わたしはクマくんを座らせて料理に取り掛かります。
(お米は残ってる、と。具は少なめになっちゃうかなぁ……)
中華鍋に火を入れて、ジャッジャッと調理に取り掛かります。
「ガウー」
(めっちゃ視線感じる……)
料理はそれこそ朝から晩まで、専門学校でもアルバイト先でも(ほとんど皿洗いですが)してるのに……。
なんでしょう? ちょっと新鮮な感じです。
「はい、よそうよ。半分こねー」
わたしの家はリビングも何もない1ルームです。
先にお皿を用意してから中華鍋をそのままリビング(リビング兼寝室ですが)に持っていきます。
「クンクンクン」
「あはは、ダーメ座ってて。おでこ気をつけないと熱いよ」
興味津々のクマさんの頭を撫でてから、二人分のお皿にチャーハンを分けます。
食べるのはレンゲでいいのかな?
……掴めるんでしょうか。
「うまそう」
「ふっふっふ。チャーハンは得意なんだよ? ホテルのまかないを手伝った時にコツを教えてもらったの」
「ガウ?」
「わたしのアルバイト先だよ? ホテルのレストラン。
和洋中なんでもありのホテルビュッフェなの。
メニューが多いし月ごとに変わるから、料理名を覚えるのが大変で……」
なんだか、隣にクマさんがいることに馴染んじゃってます。
むしろ癒やされてるくらいです。
「たべていい?」
「食べていいけど。キミはなんなのかちゃんと説明……」
「もっふもっふもっふもっふ」
は、早い。
クマさんはレンゲを器用に使って(吸い付いてる?)もぐもぐ、ごっくんと一生懸命チャーハンを食べ始めます。
(食べ方すっごい可愛い……)
蜂蜜を舐める時みたいにお皿をおなかに抱え込んで、口の中ぱんぱんにして食べちゃってる。
絶対、おいしく食べてくれてるのがわかるやつ。
「うまい」
「そ? よかった。なんてったってシェフ直伝のチャーハンだからね」
今夜のわたしはちょっとだけ威張りんぼです。
こんな得意な気分は初めてなので。
「パラパラチャーハンの秘訣はねー? 冷やごはんを水洗いしてぬめりを取ることなんだよ。あと……」
「もっふもっふ」
あ、ああ、聞いてなくて可愛い……。
「もっとたべたい」
「わ、もう食べちゃったの? じゃあ、わたしのちょっと分けてあげるね」
そういえば、見てるばっかりで自分のチャーハンにはちっとも手をつけてませんでした。
それくらい幸せな眺めでした。
「……………ガウ」
「どうしたの? お皿貸して」
「やっぱり、おなかいっぱい。いらない」
きゅんっ!
「わたしの分を取っちゃ悪いから遠慮したの? 可愛い~~」
だっこすると、容赦ないふかふかもちもと……実家のジローとはちょっと違う草原みたいな匂いがしました。
ジローはよく湿ってるので。
「いいよ。わたし今日はお仕事で疲れてるから、あんまりおなか空いてないし……
おいしいって言ってくれるの嬉しいから」
多分、これって初めての感覚かもです。
わたしは料理人を目指してますが、まだ……家族以外の人にちゃんと自分の料理を食べてもらったことがないのです。
今日まではなかったので。
「へいき。ぐりはいいから、くみたべて」
「ぐりくんっていうんだ」
どんぐりみたいだから、ぐりくんなんでしょうか?
「ぐりくんね」
見れば見るほど変な生き物で、結局はなんの説明も受けていません。
でも、もう無理でしょう。
「そうだ。作り置きのお惣菜だったら冷蔵庫にちょっとあるからそれ持ってきてあげる」
この子を嫌いになるのは不可能です。
「もっふもっふもっふもっふ」
「どう?」
「うまい」
「こっちは?」
「うまい」
「もう、ぐりくんうまいしか言わないー」
うりうりってすると、ぐりくんもニコニコ楽しそうに笑います。
わたし、東京に来てから初めてかもってくらい満たされちゃってる。
「もっもっもっもっもっもっもっもっもっもっ」
やがて、テーブルの上のお皿をすっかり綺麗にしたぐりくんは、コロンとその場でひっくり返ってしまいます。
「あ、食べ終わった?」
こくんと愛らしくうなずいて、ぐりくんは丸くなったおなかをさすりました。
ス○ーピーみたいです。
それにしても、この小さな身体のどこにこれだけの食べ物が入ったんでしょう? 謎です。
「コホン。それで? そろそろ、ちゃんとお話を聞かせてもらえると嬉しいんだけど。
っていうのも、なんとなく子供の頃に見た女の子向けアニメのプロローグみたいなのが頭に浮かんでて。
いや、わかってるんだよ? わたしなんて年も年だし……柄じゃないんだけど」
コホンと一回咳払い。
「キミは何なの? どうしてわたしの名前を知って……」
ぽてぽて、ぽてぽて。
ぐりくんはわたしの質問を完全に無視して、可愛らしい擬音つきでわたしのベッドに向かいます。
小さな身体で器用によじ登ります。
「ぐりくん? そこ、わたしのベッド」
もぞもぞ。
「ぐりくーん?」
「……ぐー」
(寝ちゃうっていうね……)
本能に忠実です。
「ぐりくーん!? ごはん食べ終わったらすぐ寝ちゃうとか勝手すぎるよ。起きなさーい」
「くぅ、くぅ」
や、やっぱり、起こしちゃかわいそうかな!
疲れてるのかもしれないし。
「……ふかふか」
魔が差しておなかを枕にしてみたら、小さな心臓がとくんとくんと鼓動を伝えてきた。
(ああー♪ なんだろうこれ、すごく落ち着く……)
わたし、重くないかな?
(あとちょっとだけ……)
「ぐー」
「…………すー」
4
ふわふわの、たんぽぽの綿毛みたいな感触に鼻先をくすぐられる……。
なんだか幸せな感触が、今朝のわたしの始まりでした。
(…………あれ?)
朝は朝で、それはわかってるんだけど、部屋がやけに明るいような……。
「いけない、電気つけたまま寝ちゃった」
あーあ、お皿も出しっぱなし。
服も着たままとか。わたし、昨日どうしたん……だっ……け……。
「…………はい?」
何気なく鏡に映ったもの……つまり自分の姿が信じられなくて、鏡に駆け寄ってた。
「き、黄色い……!」
黄色いし!
シェフみたいな可愛らしい帽子に、な、なんていうか……クマさん?
腰にクマさんついちゃってますし!
「何これ、こ、こんな服は持って……ちょ、ぐりくーーーーん!」
『まだ、ねむい』
「ぐりくん、わたしの中にいた!?」
自分でも何を言ってるのかよくわかりませんが。
事実なんだから仕方ありません。
「これってどういうことなの!? わたしの身に何が起こってるのかちゃんと説明して」
『くみ、すき』
「へ? あ、ありがと、わたしもぐりくんのことは好きだけど……」
『あさごはんの、じかん……?』
「まだ話は終わってないんだよねー」
なんだかキラキラした……粒子? みたいなやつがわたしから滲み出てるし。
無限に力が湧き上がってくる感覚もある。
「ちゃんと教えて。ぐりくんは何者で、わたしに何をさせたいの?」
『……くみに、たすけてもらう?』
「なんで自信なさげな説明なのかはわからないけど……助けるって、地球のピンチとかそういうの?」
『…………ガウ』
なんで止まっちゃうのかな。
ちょっと困ってるニュアンスが伝わってくるんですが。
『……あいどる』
「アイドル?」
『くみはあいどるになって、へんですめるまほうおうこく……ぐりたちのせかいをすくう』
「……そうなんだ」
だいぶ間が空いてから、わたしの口はそう動いてました。
もっと他に色々ありそうなものですけど。
わたしって昔からこうなんです。気が弱くて、押しに弱くて……。
『ぐりがさいごだ。これで、みんなあつまった』
「みんなって何ィーーーーー!?」
さすがにちょっとここまでくると、そういう次元の話じゃないかもですが。
完